決勝日

サイティングラップを終え、スターティンググリッドにマシンを並べる大治郎の首には暑さ対策の氷袋が当てられる。気温は30℃を超え、路面も50℃近くまで熱せられてマシンの影が足元で揺れる。ライディングスーツに身を包むライダーの体感温度は想像を絶する暑さだろう。体温が40度を超えてしまう事もあるのだ。真夏を思わせる地中海の陽射しの下、赤いシグナルに視線を集中させる。15番グリッドからのスタートは絶好のクラッチミートを見せ1コーナーのインへ滑り込む。シケインのように連続する次の2コーナーイン側に前を行く3台が並んでしまい、接触を避けるためにアウトに膨れる。4コーナの入り口で前を行くノリックのインをオリビエ・ジャックが強引に入り込み接触。押し出される形でノリックが転倒し、すぐ後ろを走行していた中野とグールベルグが巻き込まれてコースアウトしてしまう。一瞬赤いマシンが転倒したことでピット内でヒヤッとした声が上がるが、大治郎でないことを確認し胸を撫で下ろす。集団の後続を走る以上このようなリスクが高くなる。予選順位がレースの展開を分けていた。上位は後続のもたつきをよそに、快調に飛ばして行く。



オープニングラップはホールショットを奪った宇川が先頭でコントロールラインを通過、以下YAMAHAの4ストローク2台とロッシが続き、今回から2002年タイプのミシュランタイヤを使用し始めたSUZUKIの4ストロークマシンGSV-Rを駆る2000年チャンピオンのロバーツと地元スペイン出身のジベルノーが前を追う。大治郎はAPRILIAのラコーニとYAMAHAのホプキンスらを射程範囲に捕らえながら15番手で1コーナーへ向かう。2周目にYAMAHAのチェカが宇川をかわし、縦長の集団となった4ストロークの6台を引っ張る。徐々にSUZUKIの2台が遅れだし、過去2戦と同じようなHONDA RC211VとYAMAHA YZR-M1の4台が先頭集団となりコースを駆け抜ける。
大治郎は直前を行く集団に迫る。4周目にホプキンスとマクウィリアムスを、5周目に梁、6周目にラコーニをかわし10番手にポジションを上げる。2ストロークではTOPを走るカピロッシと同等の1分47秒台前半をコンスタントにマークしながら、6秒前を走るジャックとの差を詰めて行く。

中盤に入りビアッジが先頭集団から遅れ始めた。レース折り返しとなる13周目の4コーナーで宇川がチェカを捕らえ前へ出る。14周目に入った1コーナーで、再びチェカが宇川のインを突きTOPに浮上。ホンダの2台を離しかけるが、今度は3番手のロッシが宇川を交わしてチェカを追い始める。15周目にかかるメインストレートでロッシがあっけなくチェカを抜き去り、ポイントリーダーがレースを引っ張り始める。レースも1/3を消化した辺りからタイヤがスライドをみせ始めているTOP集団であったが、中速コーナーでパワースライドコントロールを巧みに見せ、スパートしたロッシが追いすがる2台を離し始める。このままロッシが逃げ切るパターンか!と思われたが、チームメイトである宇川がチェカを交わしてロッシの単独走行を許さない。徐々にチェカが遅れ始めてRC211Vの2台によるTOP争いが繰り広げられる。



8番手を走行するジャックを追っていた大治郎は、19周目についに捉えてポジションを上げる。出来る最大のライデイングで大治郎は集中していた。落ち着いて、そして着実に自らのポジションを上げながら前を走るロバーツを視界に入れた。

先頭争いはロッシの後ろに離される事なく宇川が追い詰めている。最終ラップまで持ち越されたHONDA 4ストローク同士の競り合いはコーナー立ち上がりでスライドコントロールの差を見せつけ、ロッシが6戦にして5勝目。振り返って見ると完璧なレース戦略で走り切った、ロッシの横綱相撲であった。
大治郎はロバーツを後一歩まで追い上げたが届かず、3戦ぶりのポイント獲得となる8位でフィニッシュラインを通過。15番グリッドからのスタートを考えると十分な結果を示した。2スト勢では、上位でゴールしたバロス、カピロッシと互角のラップタイムで走り切った事からも、スタート順位の大切さを改めて痛感させられたレースでもあった。

ピットに戻った大治郎をチームスタッフは拍手で迎える。マシンの水温計は高温を指し、グローブも焼けるように熱くなっていた。決勝レースでは、今週の中で最も良い走りを表現することが出来た。しかしこれに満足するのでなく、ライダーはマシンの開発という使命を果たしながら、常に優勝を目指した走りをしていかなければならない。ピットではレースを振り返り、いつものように身振りを交えてメカニックにマシンの挙動を綿密に伝える大治郎の姿があった。

大治郎はこの後すぐにヘリで空港に向かい久しぶりの日本へ戻る。帰国を楽しむ暇もなく真夏の祭典鈴鹿8耐テストのため、鈴鹿サーキットへ向かう。




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